review01
review02
アリシャスP
アリシャスP[2011年4月デビュー]
Introduction
mylist俺とお前の投稿動画(アイマス)

個人的な思い入れで言えば、今年上がったNIC@_M@STERタグの3分の1近くをアリシャスPの動画が占めている、というその一点だけで話を終えてもいいくらいです。が、そこから一歩踏み込めば、半年強で70本という旺盛な生産力に裏付けられたアリシャスPの深淵が見えてきます。
初期から一貫して、アリシャスPの画面はやわらかいブラーをかけたような色調で構成されています。その色合いはセンシティブトゥーンと相まって、まるで大気の温度さえ感じさせるようなあたたかみをもたらします。”おはよう!! 偽善者さん”における、雨のにおいと晴れ間の爽快感の心地よい対照は、まさにその色調へのこだわりによる傑出した成果でした。
色とはつまるところ光と空気の生み出す表象であり、色調の決定は空間の様態を規定することです。色調、すなわち空間の有り様を定めることで、アリシャスPの動画は支えられています。”Leaf house”などに見られる、実験的な色調変化においても、その手触りが揺らぐことはありません。
確かな立脚点があればこそ、その上で遊ぶことも出来る。それを証明するようにアリシャスPの動画は、初期の連続性のある構成から、より先鋭的なものへと変容してきました。”Saeglopur”あたりから見られる、ジャンプカット気味の不連続なカッティングは、”Sample 112”や”Light Dance”などを経てどんどんラディカルさを増していきます。近作”Mdm”は、逆回しや速度変化に衣装変化、バーストアピールまでも駆使した、破壊的でさえありながらギリギリの洗練を保つ構成によってPの成果を一望できるものとなっています。
カットはそれが不連続であればあるほど、視聴者はその間隙に数多の情報を推測・空想することでイメージを補完していきます。そうした振る舞いを喚起する不連続性こそが、映像に語られざる深淵を生み出していくのです。かといって、完全な無秩序はあまりに意味と解釈を受け手に委ねすぎるが故に、強度を失ってしまいます。破調と出鱈目の際どい一線を見極める目と、その線の上に丹念に映像を構築する技術こそが、動画作者の美学の現れでしょう。
攻撃性を増しているアリシャスPのカッティングも、しかしながら、アップとロングのほどよい振幅という形で、その本質的なあたたかみを保存しています。アイドルの表情とステージの眺望が、二重写しに空間の深みを表現します。視聴者の認識においては、その深みが不連続なカットの隙間を補完する不可視の時間において展開されます。それは、動画の実時間をはるかに越えた、長く深遠な体験です。
さて、このVRFというステージを与えられたアリシャスPが、どんな空間を展開してくるのか。激しいカッティングの多い近作中でも”Last Century Modern”のようなおだやかな傑作があり、寡黙なインストの多い選曲に”Inni Mer Syngur Vitleysingur”のような強いメッセージ性を滑り込ませる。あまつさえ、_RFなる対抗企画にまで平然と一枚噛んでしまう。その余裕ある立ち居振る舞いは、アリシャスPの基調であるあたたかく優しい色の空間そのものの体現であるかのように思えます。VRFの荒々しく尖った舞台が、ふとそんなやわらかな肌触りの色に染まるのを、私は楽しみにしています。【ガラクタ】